厚生労働省の人口動態統計によれば、日本で結婚時に妻の姓を選択し、男性が改姓する割合は全体のわずか約5%から6%にとどまります。つまり、94%以上のカップルにおいて女性が苗字を変更しているのが現実です。法的には男女どちらの姓を選んでも対等であるにもかかわらず、なぜここまで一方の選択に偏るのでしょうか。数値の裏には、根強い慣習や手続き上の実情が複雑に絡み合っています。

明治から続く家制度の残影と現代における男性改姓の背景

現在の民法第750条では、夫婦は婚姻の際に「夫又は妻の氏」を自ら選択して決定すると定められています。法律上は完全な対等です。しかし歴史を遡ると、かつての「明治民法」における家制度のもとでは、妻が夫の家に入る「入籍」が原則的かつ当然の規範とされていました。1947年の民法改正によって法律上の性別不平等は解消されたものの、半世紀以上が経過した今日でも「結婚したら男性側の家門の名を名乗る」という社会的暗黙の了解は色濃く残存しています。周囲の無理解や親世代からの精神的圧力が、男性改姓を選択肢から排除する大きな障壁であり続けているのです。

男性が改姓を決断する際の手続きとステップ

男性が妻の姓へ変更する決定を下した場合の実際の流れは至ってシンプルですが、手間は決して小さくありません。

まず婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」という欄で「妻の氏」を選択し、市区町村役場へ提出します。これで戸籍上の手続きは成立します。しかし、本当の大変さはそこから始まります。運転免許証、パスポート、銀行口座、クレジットカード、マイナンバーカードの変更処理をひとつずつ順番にこなさなければなりません。職場で旧姓通称使用をするかどうかの会社との協議や、健康保険・厚生年金の改姓申請など、多岐にわたる行政・民間手続きを自ら進める覚悟が求められます。

実際の事例:改姓を選んだ30代男性が直面した現実

都内のIT企業に勤務する30代のAさんは、妻が家業を継ぐ立場にあったことから自ら改姓を選びました。旧姓での実績があったため、会社では旧姓を通称として使用し続けています。しかし、出張時の航空券手配での名義相違、社外取引先との契約書における本名と通称の乖離、金融機関での本人確認の煩雑さなど、想像以上のストレスに直面しました。「自分が改姓してみて初めて、これまで女性側が背負わされてきた負担の大きさを身をもって実感した」とAさんは語ります。社会の制度設計や意識改革がまだ追いついていない実情が浮き彫りになっています。

専門家の見解と今後の展望

専門家の多くは、男性の改姓割合が依然として約4%前後で推移している現状について、法制度と社会的慣習の双方が強く影響していると指摘しています。 夫婦同姓を義務付ける現行の民法下では、長年培われた「家」の概念や無意識の偏見が根強く残り、結果として女性側が改姓を選択する構造が固定化しています。しかし、ジェンダー平等の意識向上やキャリアの継続性を重視する若年層の増加に伴い、従来の固定観念に対する違和感や見直しの機運も確実に高まっています。

また、選択的夫婦別姓の導入に向けた議論が活発化する中で、改姓に伴う各種手続きの不便さや不利益への問題意識が共有されつつあります。今後は、改姓をどちらか一方の負担と捉えるのではなく、個人のアイデンティティやライフスタイルに応じた多様な選択肢を保証する社会の構築が求められています。

よくある質問(FAQ)

Q1: 男性が改姓する場合、具体的にどのような手続きや懸念点がありますか?

A: 基本的な手続きは女性の場合と同一ですが、社会的認知の途上ゆえの固有の負担が存在します。 運転免許証、パスポート、銀行口座やクレジットカードの名義変更、職場での各種登録変更など多岐にわたる手続きが必要です。加えて、男性の改姓割合が低いため、職場や親族から理由を過度に尋ねられたり、行政・金融機関の窓口でスムーズに処理が進まないといったケースが報告されています。

Q2: 婿養子に入らなくても、男性が妻の姓を選択することは可能ですか?

A: はい、養子縁組(婿養子)をしなくても男性が妻の姓を選択することは完全に可能です。 民法上、婚姻時に「夫の氏」または「妻の氏」のいずれかを夫婦の協議で定めることとされています。親族関係を新たに結ぶ養子縁組を行わなくても、婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」欄で「妻の氏」を選択するだけで、法律に基づき男性が妻の姓を名乗ることができます。

改姓の未来、あなたはどう捉えますか?

伝統的な「当たり前」が問い直され、個人とキャリアの尊重が叫ばれる現代において、夫婦の「姓」の選択は単なる手続きを超えた生き方の問題となりつつあります。あなたが将来、あるいは今まさにパートナーと姓を選ぶとしたら、どのような価値観を最も大切にしたいと思いますか?