なぜ亡くなった人は「左前」で着物を着せるのか?
日本の葬儀や仏事において、故人に着せる和服(死装束)を「左前(ひだりまえ)」にする風習はよく知られています。普段、生きている私たちが着物を着る際は「右前」が基本ですが、なぜ亡くなった方だけは逆にするのでしょうか。
その大きな理由の一つに、仏教に伝わる「奪衣婆(だつえば)」という鬼婆の存在があります。言い伝えによると、人が亡くなった後に渡るとされる「三途の川」のほとりには奪衣婆がいて、渡ってきた故人の着物を無理やり剥ぎ取ってしまうとされています。
奪衣婆が奪った着物は、もう一人の鬼である「懸衣翁(けんえおう)」によって衣領樹(えりょうじゅ)という木の枝に掛けられます。そして、その枝の垂れ下がり具合によって生前の罪の重さが測られるのです。つまり、着物が重ければ重いほど罪が重いと判断され、その後の冥界での試練が厳しくなってしまいます。
そこで、故人の着物をあらかじめ脱ぎにくい「左前」にしておくことで、「奪衣婆に着物を奪われないようにする」「故人を悪霊や不当な審判から守る」という情けや願いが込められるようになりました。
普段の着付けと逆にする「逆さ事」には、生と死を区別する意味もありますが、そこには大切な人があの世で困らないようにという、残された遺族の温かい祈りが込められているのです。
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