アメリカで国際結婚の末に生まれたハーフのお子さんは、出生と同時に日本とアメリカの両方の国籍を自動的に取得します。いわゆる「生まれながらの二重国籍(多重国籍)」の状態です。日本は原則として二重国籍を認めていないという話を聞いたことがあるかもしれませんが、出生地主義を採用するアメリカと、血統主義を採る日本の法律の狭間で、子供たちは21歳に達するまで(2022年の民法改正以降)合法的に双方のパスポートを保持することが可能です。まずはこの事実を正確に把握することが、将来の選択の第一歩となります。
出生地主義と血統主義が織りなす法的交差点の真実
国籍の決定には、大きく分けて二つの法理が存在します。アメリカが採用する「出生地主義(jus soli)」は、その国の領土内で生まれた者すべてに国籍を付与する先進国ではお馴染みの制度です。親の国籍や滞在資格の有無(一部の外交官などを除く)に関わらず、アメリカの土を踏んで産声を上げた瞬間に、合衆国憲法修正第14条に基づき、絶対的なアメリカ市民権が与えられます。
これに対峙するのが、日本が頑なに維持し続ける「血統主義(jus sanguinis)」です。出生の場所がどこであろうとも、血のつながり、すなわち父親か母親のどちらかが日本国民であれば、その子は日本国籍を取得する権利を有します。この二つの異なる法システムが完全に合致した結果、アメリカで生まれたハーフの子供は、誰に強制されるでもなく、自然発生的に二つの国家への帰属権を手に入れることになるのです。この初期状態を「違法」と捉えるのは完全な誤解であり、国際私法の絡み合いが生んだ至極合法的な結果に他なりません。
国籍保留届の提出を怠ることで発生する「国籍喪失」の危機
しかし、ここに日本法が仕掛けた極めて厳格なハードルが存在します。アメリカで生まれたハーフの子供が日本国籍を維持するためには、出生の日から3か月以内に現地の日本大使館や総領事館、あるいは日本の市区町村役場に対して「国籍保留の届出」を付随した出生届を提出しなければなりません。これを日本の国籍法第12条は義務付けています。
もしこの3か月という限られた猶予期間内に手続きを怠った場合、その子供は出生の時に遡って日本国籍を完全に喪失します。これは後から「知らなかった」では済まされない容赦のない規定です。海外出産という怒涛の日々の中で、この手続きを失念してしまうケースは後を絶ちません。一度失った国籍を再取得するには、日本に住所を移した上で、法務大臣への国籍再取得の届出を行うなど、非常に煩雑な手続きを強いられることになります。二重国籍という特権は、親の迅速な初動によって初めて担保される脆い権利なのです。
「22歳までの選択義務」という日本独自のアポリア
晴れて二重国籍を維持したまま成長した子供には、やがて自らの意思で一つの国籍を選ぶべき「国籍選択の義務」が到来します。現在の日本の法律では、18歳に達するまでに二重国籍となった者は20歳に達するまでに、18歳以降に二重国籍となった者はその時から2年以内に、どちらかの国籍を選択しなければならないと定められています。
ここで重要なのは、日本国籍を選択する場合に課される「外国の国籍を離脱するよう努めなければならない」という努力義務の存在です。日本政府に対して「日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄する」という国籍選択届を提出することで、日本国内法上の義務は一応の履行を見せます。しかし、アメリカ側は他国への忠誠宣言によって自動的に市民権が消滅するようなシステムを採っていないため、ここに制度の捻れ、いわゆる「形式的な選択」と「実質的な保持」のグレーゾーンが生じることになります。この運用実態が、当事者たちの人生設計を深く悩ませる要因となっているのです。
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