韓国籍の被相続人(亡くなった方)の相続手続きにおいて、まず結論から申し上げますと、「原則として韓国の民法が適用されるが、日本国内の不動産や預貯金の手続きには日本の戸籍制度に代わる膨大な書類収集が必要になる」ということです。日本で生まれ育った在日韓国人の方であっても、国籍が韓国である以上、法の適用関係を定める日本の「通則法」により、相続の本質的なルール(誰が相続人になるか、法定相続分はいくらか)は韓国民法に従うことになります。ここを見落とすと、後の遺産分割協議がすべて無効になりかねません。

在日韓国人の相続を規律する「法の適用に関する通則法」の壁

日本国内で生活基盤を築いていたとしても、国籍という法的な絆は厳然と残ります。日本の「法の適用に関する通則法」第36条は、「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。つまり、被相続人が韓国籍であれば、適用されるのは日本の民法ではなく韓国民法です。しかし、実務はそう単純ではありません。韓国の国際私法(国際不法行為や家族法の準拠法を定める法律)の規定や、日本国内に存在する財産の処分方法を巡り、手続きは急激に難解さを増します。さらに、2008年に韓国で従来の「戸主制」が廃止され、「家族関係登録制度」へと移行したため、旧慣習法から現行法への過渡期を跨ぐ場合、どの時点の法律を適用すべきかという、専門家ですら頭を抱える高度な法的判断(準拠法特定)が求められるのです。

韓国民法と日本民法の決定的な相違点:相続人と法定相続分

韓国民法と日本の民法は、一見似ているようでいて、その中身には大きな隔たりが存在します。最大の違いは「配偶者の法定相続分」と「直系尊属の順位」です。日本の民法では、子どもと配偶者が相続人の場合、取り分はそれぞれ2分の1ずつですが、韓国民法(第1009条)では、配偶者の相続分は他の相続人の法定相続分に「5割を加算」します。つまり、子どもが2人、配偶者が1人の場合、相続分の比率は「1(子):1(子):1.5(配偶者)」となり、分母を合わせると配偶者が7分の3、子どもがそれぞれ7分の2となります。また、日本では子ども(直系卑属)がいれば親(直系尊属)は相続人になりませんが、韓国の古い法制度の解釈や、数次相続(相続が連続して発生すること)が絡むケースでは、日本の感覚だけで遺産分割を進めると、想定外の親族が登場して手続きが完全にストップするリスクを孕んでいます。

実務の現場を震撼させる「家族関係登録簿」と除籍謄本の収集

実務上、最も高いハードルとなるのが、被相続人の「出生から死亡まで」の身分変動を証明する書類の収集です。日本にいながらにして、韓国の「家族関係証明書」「婚姻関係証明書」「入養関係証明書」「親養子入養関係証明書」「基本証明書」という5種類の証明書を駐日韓国領事館などで取得しなければなりません。さらに、2008年以前に生まれた方であれば、それ以前の「除籍謄本」も遡って取得する必要があります。これらはすべて韓国語(一部は漢字とハングルが混在した古い手書き文書)で記載されているため、日本の法務局や金融機関に提出する際には、一字一句正確な「日本語訳」を添付することが義務付けられます。翻訳のズレや名前の表記の不一致(通称名と本名の不一致など)があれば、即座に受理を拒否されるのが実情です。

韓国籍の相続における注意点と専門家からのアドバイス

韓国籍の被相続人に関する手続きで最も多い失敗は、日本の法律だけで判断して進めてしまうことです。相続順位や遺留分の割合など、随所に日本法との違いが存在します。また、韓国の家族関係登録簿(旧外国人登録原票や戸籍にあたるもの)の取り寄せや翻訳には膨大な時間と専門知識を要します。文字のわずかな違いが原因で手続きが却下されるケースも少なくありません。国際相続の経験が豊富な司法書士や税理士などの専門家へ早期に相談し、正確な書類収集と迅速な翻訳を進めることが、トラブルを回避し円滑に遺産分割を進めるための最大の鍵となります。

よくある質問(FAQ)

Q1: 韓国の家族関係登録証明書はどこで取得できますか?

A1: 日本国内にある大韓民国領事館で請求することができます。ただし、被相続人の「本籍地(登録基準地)」の正確な情報が必要となるため、事前に日本の住民票(除票)や閉鎖外国人登録原票などを確認し、情報を特定しておく必要があります。

Q2: 日本にある不動産の登記名義はどう変更しますか?

A2: 法務局で相続登記の手続きを行います。その際、韓国の法律に基づいて確定した相続人全員の戸籍書類(翻訳文付き)と、遺産分割協議書が必要になります。日本の不動産であっても、適用される相続法は原則として韓国法になります。

Q3: 韓国にも相続税の申告が必要ですか?

A3: 被相続人が日本に居住していた場合、日本国内の財産については日本の税務署に相続税を申告します。ただし、韓国国内にも不動産や預貯金などの財産がある場合は、韓国側でも相続税の申告・納税が必要となり、日韓両国での二重課税調整(外国税額控除)の手続きが必要になる場合があります。

総括

韓国籍の被相続人に係る手続きは、国境を越えた法律と手続きが複雑に絡み合う難度の高い分野です。言葉の壁だけでなく、法制度のアップデートにも迅速に対応しなければなりません。親族間での無用なトラブルを防ぎ、大切な財産を正しく引き継ぐためにも、プロフェッショナルのサポートを活用しながら、丁寧かつ確実なステップを踏んで手続きを進めることを強く推奨いたします。