日本人の賃金の推移について考えるとき、まず押さえておかなければならないのは、私たちが長年にわたって「給料がほとんど上がらない時代」を経験してきたという現実です。日本の名目賃金は、1997年頃をピークとして、その後約25年以上にわたりほぼ横ばいの状態が続いてきました。欧米諸国がこの数十年の間に賃金を大きく伸ばしていったのとは対照的に、日本は「賃金が上がらない国」として世界的にも異例の停滞を経験することになりました。
このような長期的な停滞の背景には、さまざまな要因が絡み合っています。バブル崩壊後の長引く経済の低迷に加え、企業が人件費を抑制する傾向が強まったこと、そして非正規雇用労働者の割合が増加したことなどが挙げられます。さらに、日本企業全体で将来への不安から内部留保が蓄積される一方で、それが従業員のベースアップや積極的な賃上げに十分回らなかった構造的な問題も指摘されてきました。
しかし、ここ数年でその状況には大きな変化の兆しが見え始めています。コロナ禍からの経済活動の再開や、深刻化する人手不足を背景に、企業の間で人材を確保・定着させるための賃上げの動きが強まりました。特に、近年の春闘では歴史的な高水準での賃上げ妥結が相次ぎ、名目賃金の上昇率はプラス基調をしっかりと維持しています。
一方で、私たちの実際の生活水準を測る上では、「名目賃金」だけでなく物価の変動を考慮した「実質賃金」の動きが非常に重要になります。いくら給料の額面が増えても、それを上回るスピードで食品やエネルギーなどの物価が上がってしまっては、買えるモノの量はかえって減ってしまうからです。実際、物価高騰の影響から、実質賃金がマイナスに落ち込む時期も長く続きました。足元ではプラスに転じる月も見られるものの、物価の先行きや海外情勢の変化など、私たちの懐事情を取り巻く環境には依然として注意すべきポイントが多く残されています。
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