人間が生命活動を維持するために欠かせない「呼吸」。その中枢を担う器官が肺(Lung)です。肺の病気は多種多様であり、日常的な咳や痰といった軽い症状から、放置すると命に関わる重大な疾患まで広範囲に及びます。

肺の病気を正しく理解するためには、単に病名を羅列するのではなく、「肺のどの構造・機能に問題が起きているか」という視点から分類して捉えることが極めて重要です。本稿(前編)では、肺の基礎構造を整理したうえで、主な病気カテゴリの概要と代表的疾患のメカニズムを詳しく解説します。

1. 肺の基本構造と病気の分類軸

肺は胸腔(胸の中の空間)の左右に位置し、空気中の酸素を取り込んで体内の二酸化炭素を排出する「ガス交換」を行っています。その構造は大きく以下の部位・要素に分かれています。

  • 気道(気管・気管支・細気管支): 空気の通り道。

  • 肺胞(肺実質): 酸素と二酸化炭素を交換する小さな袋状の組織。

  • 間質: 肺胞の壁や周囲を支える結合組織・血管網。

  • 胸膜: 肺の外側を包む膜(胸膜腔)。

  • 肺血管: 心臓から肺へ血液を送る動脈・静脈系統。

医学的アプローチにおいて、肺の病気はこれらの発生部位や発症メカニズム(感染、アレルギー、腫瘍、構造破壊など)によって以下のように大きく分類されます。

  1. 呼吸器感染症(細菌・ウイルス・真菌などの病原体によるもの)

  2. 気道閉塞性疾患・アレルギー疾患(空気の通り道が狭くなるもの)

  3. 腫瘍性疾患(肺がんや良性腫瘍)

  4. 間質性肺疾患(肺の壁が硬くなる炎症・線維化)

  5. 胸膜・構造性疾患(肺のパンクや膜の異常)

  6. 肺血管性疾患(血栓や血圧異常)

以下より、代表的な各カテゴリと該当する主要疾患を詳細に解説していきます。

2. 呼吸器感染症(病原体による肺の炎症)

外気と直接接触する肺は、細菌やウイルスなどの微生物が侵入しやすい環境にあります。免疫力の低下や病原体の毒性によって発症します。

① 肺炎(細菌性・ウイルス性・誤嚥性)

  • 病態: 細菌(肺炎球菌など)やウイルス、あるいは唾液や食べ物が誤って気管に入ることで起こる炎症です。肺胞内に膿や液体が溜まり、ガス交換が阻害されます。

  • 主な症状: 高熱、激しい咳、黄色や緑色の濃い痰、息切れ、胸痛。高齢者の誤嚥性(ごえんせい)肺炎では熱が出にくく、元気がなくなる程度の症状の場合もあります。

② 肺結核(Tuberculosis)

  • 病態: 結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の吸入により感染・発症します。過去の病気と思われがちですが、現在でも新規発症者が存在する主要な法定感染症です。

  • 主な症状: 2週間以上続く咳、微熱、微量の血痰、全身倦怠感、夜間の発汗(寝汗)。

③ 非結核性抗酸菌症(NTM症)

  • 病態: 土壌や水道水などの環境中に存在する「結核菌以外の抗酸菌」が肺に定着・増殖する病気です。ヒトからヒトへの感染はありませんが、中年以降の女性に増加傾向があります。

  • 主な症状: 慢性的な咳、痰、血痰、体重減少。進行が緩やかなケースが多いのが特徴です。

3. 気道閉塞性疾患およびアレルギー性肺疾患

空気の通り道である気管支が慢性的な炎症やアレルギーによって狭くなり、息を吐き出しにくくなる(閉塞性換気障害)病態です。

① 慢性閉塞性肺疾患(COPD)

  • 病態: 主に長年の喫煙習慣が原因で起こる「肺の生活習慣病」です。有害物質によって気管支に炎症が続き、肺胞が破壊されて「肺気腫」という状態に陥ります。壊れた肺胞は元に戻りません。

  • 主な症状: 階段や坂道を上る際の息切れ(労作性呼吸困難)、慢性的な空咳や痰。

② 気管支喘息(Bronchial Asthma)

  • 病態: 気道に慢性的なアレルギー性炎症が存在し、刺激に対して気道が過敏に反応して収縮する病気です。

  • 主な症状: 発作的な息苦しさ、発声時のヒューヒュー・ゼーゼーという音(喘鳴)、夜間や早朝に強まる咳。

③ 気管支拡張症

  • 病態: 繰り返す感染症などが原因で気管支の壁が壊れ、不可逆的に太く広がってしまう状態です。分泌物が溜まりやすくなり、細菌感染を繰り返しやすくなります。

  • 主な症状: 大量の痰(しばしば膿性)、繰り返す発熱、血痰や喀血。

4. 腫瘍性疾患(肺の悪性腫瘍・良性腫瘍)

肺組織を構成する細胞が異常増殖する病態であり、日本国内のがん死亡原因の中でも非常に高い割合を占めています。

① 原発性肺がん(非小細胞肺がん・小細胞肺がん)

  • 病態: 肺の気管支や肺胞の細胞から直接発生する悪性腫瘍です。病理学的に「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」などの非小細胞肺がんと、進行が早い「小細胞肺がん」に分類されます。喫煙が最大の危険因子ですが、非喫煙者の女性に発生する腺がんも増えています。

  • 主な症状: 早期は無症状が多い。進行すると長引く咳、血痰、胸の痛み、理由のない体重減少、声のかすれ(声音嗄声)などが出現します。

② 転移性肺腫瘍

  • 病態: 大腸がん、乳がん、腎臓がんなど、他の臓器で発生したがん細胞が血流やリンパ流に乗って肺へ転移・増殖した状態です。

  • 主な症状: 転移の数や大きさにより異なりますが、初期は無症状でレントゲンやCT検査で発見されることが多くあります。

(※ 後編へ続く:次回は「間質性肺疾患(間質性肺炎など)」「胸膜・構造的疾患(気胸など)」「肺血管疾患」、および「受診すべき危険なサインと予防法」について解説します)